黄昏色に、さようなら。
「寒っ……」
背中の汗が冷えて、ヒンヤリする。
このままじゃ風邪をひいちゃう。シャワーでも浴びて、気持ちを切り替えよう。
重い体をズルズルと引きずるように、二階の自室から階下のバスルームへと向い、
洗面所兼脱衣所の外開きのドアを無造作に開け、視線を上げたその瞬間、
えっ!?
ドアノブを掴んだまま、私の全身はものの見事にピキッ! と固まった。
家は三年前に両親が交通事故で亡くなってから、私と祖父母の三人家族。
だから、朝にシャワーを使うとしたら私しかいない。
なのに、
目の前には、今まさにシャワーを浴び終えて『お着換え中』の先客がいた。
目が覚めるようなオレンジ色の頭髪を、タオルでガシガシ拭き取っているその人物の均整の取れたしなやかな肢体からは、ホカホカと湯気が上がっていて、
右耳につけられた、幅一センチ程の銀色のクリップ式イヤリング、イヤーカーフが、水を弾いてキラリと鋭い光を放っている。
「ん? ああ、おはよう。シャワー使うのか?」
「……」
ダルマさんが転んだ状態のまま硬直している私に、ニコやかに声をかけた人物こそ、
何を隠そう噂の幼なじみ、
『加瀬純一郎』、その人だった。