黄昏色に、さようなら。
亡くなったおじいさんは八十五歳で、今まで病気らしい病気もせずに、昨日まで元気に農作業をしていて、苦しむこともなく眠るように息を引き取ったのだそうだけど、
だからと言って、身内を亡くした悲しみが軽くなるはずはない。
こんな風に人の死に接するとき、胸の奥に穿たれた塞ぎきらない見えない傷跡に、ズクリと鋭い痛みが走る。
三年前、
中三の夏休みに、私は、父と母を交通事故で同時に無くした。
父と母と私、
家族三人で父の運転する車で外食に出かけたその帰り、私たちの車は大きな玉突き事故に巻き込まれたのだ。
父と母はほとんど即死状態で、
皮肉なことに、外食をせがんだ私だけが、奇跡的にかすり傷で生き残った――。
昨日まで当たり前にあった存在が跡形もなく消えてしまう残酷な現実を、私は、嫌というほど身に染みて知っている。
こういう時、言葉は何の慰めにもならない。
だから、せめて。
「純ちゃん、食後はお茶がいい? それともコーヒー? 特別にカフェ・オレも作っちゃうよ?」
私は、いつも通りでいよう。
そんな私の気持ちを見透かしたように、純ちゃんは、「じゃ、カフェ・オレ・プリーズ」とおどけたように言って、ふっと目元を和らげた。