黄昏色に、さようなら。
何か、
大切なことを、忘れている気がする。
ああ、モヤモヤする。
もう少しで思い出せそうなのに、出てこない、
そんなもどかしさだけが、募っていく。
「ねえ、本当に平気なの? なんだか顔色が悪いけど。四時間目の授業、どうせ体育だからここで休んでたら? 先生には、アタシから言っとくからさ」
「あ、うん。でも……」
の後に言いかけた、『もう平気だから、私も行くよ』の言葉は、純ちゃんがおもむろに放った一言で、喉の奥に固まってしまった。
「坂宮。風花は、俺が家に送っていくから、担任と体育の先生に『体調不良で早退』だって言っておいてくれないか?」
「え!?」
っと、良子ちゃんと二人同時にハモリ、やはり同じように目を丸めて、発言者をまじまじと見つめた。
「……加瀬君」
真面目くさった表情の純ちゃんを、良子ちゃんは探るように、ジロリと鋭い視線で睨みつけて言う。
「倒れた風花を『お姫様抱っこ』で運んだのは緊急避難だから、まあ良いとして」
げっ、お姫様抱っこ!?
「今日のあんた、なんか変なのよね」
そ、そうなのよ!
やっぱり、良子ちゃんもそう思うよね!?
「その髪の毛だってそうだし、風花を見る目が妙にねちっこいし、今まで絶対、風花とのナチュラル・ディスタンスを崩さなかったのに、いったいどう言う心境の変化?」
ベッドの上に座ったままガッツポーズを作って『うんうん』頷いていると、更に眼光を鋭くした良子ちゃんは、ドスの聞いた低い声で言い放った。
「まさか、この機に乗じて、風花をかどわかそうって言うんじゃないでしょうね?」
かっ、
「かどわかすぅ!?」
すっ頓狂な声を上げたのは、純ちゃんではなく、私。
な、何を言い出すんだ、良子ちゃん!
棘のある言葉と視線を良子ちゃんに向けられた純ちゃんは、何も答えず、ただニッコリと口の端を上げた。