黄昏色に、さようなら。

まるで、仮面が外れたように、鮮やかに浮かべた会心の笑み。


その表情に、脳裏を駆け抜ける激しい既視感。


髪の色ばかりか、こうして不意に垣間見せる表情が、いつもの純ちゃんと明らかに違う。


自信満々で俺様なこの表情は、まるで――。


「じゃあ、帰るぞ風花」


「へっ!?」


歩みよってきた純ちゃんは、ベッドに背を預けて座ったままの私に、腕を伸ばした、


かと思いきや、ひょいっと抱え上げて自分の傍らに立たせた。


よどみない動作に、またも走る既視感。


思わず、純ちゃんの顔を見上げると、その瞳には、イタズラ盛りの少年みたいな光が踊っている。


『いくぞ、風花。このまま、学校を出るんだ』


えっ!?


頭に直接響いてくる声に、目を見開く。


聞き違い……よね?


まさか。


まさか、そんなこと、あるわけない。


あれは、ただの夢。


ここは、夢の中の世界じゃない。


目の前にいるのが、『パラレル・ワールドの純ちゃん』だなんて、そんなこと。


ばかげていると思いながらも、完全に否定できない自分がいた。


それほどに、今の純ちゃんは、いつもと違う。


違いすぎる。


混乱してその場に立ちすくむ私の手を、純ちゃんがさりげなく掴んで、そのままぐいぐいと引っ張っていく。


いつもなら、絶対黙って連れて行かれるような真似はしない。


でも。


振りほどけない。


ほんのりと、手のひらから伝わる温もりに、抗う気持ちを溶かされて、


なすすべもなく、引っ張られていく。


「あ、ちょっと、加瀬君! あんたの事は先生になんて言うのよ!?」


「俺は、じーさんが死んだから、忌引き早退!」


「はあっ!?」

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