黄昏色に、さようなら。
四時間目の授業開始のチャイムが響き渡る中、保健室の前で何か喚いている良子ちゃんを置き去りにして。
幸い体育の授業で皆が出払った教室に立ち寄り、慌ただしく荷物を引っ掴んで、休む間もなく校舎を後にした。
校門を抜け、
色付き始めた、銀杏並木の坂を抜け、
家に帰るはずなのに、なぜかいつものバス停を通り過ぎ、
しっかりと手を繋いだまま、純ちゃんは有無を言わせず、スタスタと早足で歩いて行く。
でも悲しいかな、コンパスの差は歴然で、
純ちゃんの早歩きは、ほとんど私の小走り状態。
学校を出てまだ数分なのに、既に息が上がって苦しい。
「純ちゃんっ、ちょっと待って。なんで、こんなに急いでるのっ?」
じゃなくて、
「どこへ行くのよ、バス停はあそこっ!」
ぜえはあ肩で息をしながら、
それでもなんとか引かれる力に逆らってぐっと足を止め、通り過ぎたバス停を『ぴっ!』っと指差す。
「急いでいるのは、時間がないから。バスには乗らない。行先は、行ってのお楽しみ」
息一つ乱れていない涼しい表情で、きっちり質問に答えた純ちゃんは、再び私の手を引き、歩き出す。
「行ってのお楽しみって、ちょっと!」
あまりに理解不能な状況と酸欠で、脳細胞がうまく働かない。
訳も分からず手を引かれ、駅で電車に乗り、更に乗り換えて。
どれくらい経ったのかと腕時計を見てみれば、すでに午後二時。
すっかり抗う気力が無くなった私が連れてこられたのは、川べりに沿って作られた大きな自然公園だった。