黄昏色に、さようなら。

たぶん、芝植えとは言え、後頭部を地面にしたたか打ち付けたんだと思う。


ゴチンと言う小気味よい音と共に、目から火花が散った気がする。


良子ちゃんの頭は何とか、自分の体でホールドできたと思うけど。


カッコ良く決めたつもりなのに。


ああ、私って、つくづく間が抜けてる。


と悲しくなりながら、世界が暗転。


どのくらい気を失っていたのか、


「風花――」


と、名を呼ばれた気がして、ふっと目を開けた時、視界の先にある空はもう、茜色に染まっていた。


秋の夕暮れの空気は、ピンと張りつめていてどこか冷たい。


物寂しく、薄く広がる鰯雲。


既に闇色に染まった森の木立の向こう側へ、


沈み行く太陽の残照が、微かな光を投げかけてくる。


ここは?


一瞬、自分がどこに居るのか混乱し、すぐに純ちゃんに連れられて来た自然公園だと思い出す。


あ、あれっ!?


グリードは、良子ちゃんは、純ちゃんは!?


泡を食ってあたふたと立ち上がり、周りをキョロキョロと見渡してみても、人っ子一人見当たらない。


足元には、自分のカバンとペットボトル入りのお茶が一本。


さっと一気に、頭から血の気が引いて、思わず自分を両腕でかき抱く。


「まさか、今までの、全部夢……とかないよね?」


そんな、そんなの嫌だ。


パラレルワールドに行ったことが、夢だなんてそんなこと。


銀髪の風花ちゃん、


茶髪の良子ちゃん。


博士に、ガーディアンの仲間たちに、ポチ。


それに、純ちゃん。


出会ったことが現実じゃないなんて、そんなの絶対いやっ!


視界が、グニャリと歪んだ。


悲しいのか、切ないのか、やるせないのか、怖いのか。


ごちゃ混ぜになって喉の奥から込み上げてきた熱いものが、堰を切って溢れだそうとしたその時、


「アホか。んなことがあるかよ」


背後から飛んできたやたらと明るい声に、心臓を鷲掴みにされて、文字通りビクっと飛び上がった。

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