黄昏色に、さようなら。

恐る恐る振り返ると、目に飛び込んできたのは、夕日を浴びて一層明るく感じるオレンジ色の髪。


「純ちゃ……」


名を呼ぼうとして、


不覚にも、ポロリと涙が一筋、頬を伝い落ちた。


ゆっくりと歩み寄ってきた純ちゃんは、「何泣いてんだよ?」と、両手の親指の腹で、涙に濡れた頬を拭ってくれる。


その穏やかな表情と温もりが心にしみて、再び涙があふれ出す。


「っ……」


ばかっ。


「こんな時に優しくしないでよっ。よけいに泣けてくるじゃないっ!」


「なにか誤解があるな。俺は、女には、いつも優しいぞ」


ええ、そうでしょうとも。そうでしょうとも。


私の精いっぱいの虚勢に、うん? と片眉を上げて、ニヤリと笑うその表情がまるでガキ大将のようで、思わず笑ってしまう。


ああ、こんな時なのに、なんだか、涙と鼻水でぐしょぐしょだ。


もう、タイムアップ。


時間切れ。


もうすぐ、純ちゃんは、元の世界に戻らなければいけない。


今度こそ、本当に、さようならだ。


顔を上げていられず、思わず足元に視線を落とすと、大きな手で頭をグリグリ撫でられた。


思えば、こうして撫でられるのも、そんなに嫌いじゃなかった。


「良く頑張ったな」


静かな優しい声が、心にしみてくる。


純ちゃんが居てくれたからだよ。だから、私は頑張れた。


想いは言葉にはならず、ただコクリと頷く。


「グリードの奴らは、見つけた体を『向こう』へ送還して、一応辿りついたみたいだから、もう心配はないだろう。」


「……うん」


運よく、なのか分からないけど、アイツらは、元の世界に戻って裁かれる。


「坂宮たちは、それぞれの家に送り届けてあるから、こっちも心配無用だ。多少憑依された後遺症で体力が落ちるかもしれないが、若いからな。すぐに回復するだろう」


「うん」


「あ、ここの純一郎は、親と一緒にじーさんの葬式に行ってるから、これも心配いらない」


「うん」


「それと……」


ためらうように濁された言葉の続きは、分かっている。


< 96 / 100 >

この作品をシェア

pagetop