黄昏色に、さようなら。
恐る恐る振り返ると、目に飛び込んできたのは、夕日を浴びて一層明るく感じるオレンジ色の髪。
「純ちゃ……」
名を呼ぼうとして、
不覚にも、ポロリと涙が一筋、頬を伝い落ちた。
ゆっくりと歩み寄ってきた純ちゃんは、「何泣いてんだよ?」と、両手の親指の腹で、涙に濡れた頬を拭ってくれる。
その穏やかな表情と温もりが心にしみて、再び涙があふれ出す。
「っ……」
ばかっ。
「こんな時に優しくしないでよっ。よけいに泣けてくるじゃないっ!」
「なにか誤解があるな。俺は、女には、いつも優しいぞ」
ええ、そうでしょうとも。そうでしょうとも。
私の精いっぱいの虚勢に、うん? と片眉を上げて、ニヤリと笑うその表情がまるでガキ大将のようで、思わず笑ってしまう。
ああ、こんな時なのに、なんだか、涙と鼻水でぐしょぐしょだ。
もう、タイムアップ。
時間切れ。
もうすぐ、純ちゃんは、元の世界に戻らなければいけない。
今度こそ、本当に、さようならだ。
顔を上げていられず、思わず足元に視線を落とすと、大きな手で頭をグリグリ撫でられた。
思えば、こうして撫でられるのも、そんなに嫌いじゃなかった。
「良く頑張ったな」
静かな優しい声が、心にしみてくる。
純ちゃんが居てくれたからだよ。だから、私は頑張れた。
想いは言葉にはならず、ただコクリと頷く。
「グリードの奴らは、見つけた体を『向こう』へ送還して、一応辿りついたみたいだから、もう心配はないだろう。」
「……うん」
運よく、なのか分からないけど、アイツらは、元の世界に戻って裁かれる。
「坂宮たちは、それぞれの家に送り届けてあるから、こっちも心配無用だ。多少憑依された後遺症で体力が落ちるかもしれないが、若いからな。すぐに回復するだろう」
「うん」
「あ、ここの純一郎は、親と一緒にじーさんの葬式に行ってるから、これも心配いらない」
「うん」
「それと……」
ためらうように濁された言葉の続きは、分かっている。