黄昏色に、さようなら。
「記憶と力を、封印……するんだよね?」
「ああ」
私の力はこの世界には必要ないもの。むしろ害になるものだから、封印されたって構わない。
だけど……。
私の迷いを見透かすように、純ちゃんは、静かに言葉を紡ぐ。
「お前の力とパラレルワールドの記憶は、切り離して封印することはできないんだ。力を封じれば記憶も同時に閉ざされる。悪いな。それは俺の力ではどうしようもない」
ううん、と静かに頭を振った。
分かっている。
これは、三年前に一度経験したこと。
でも、分かっているけど、心がついて行かない。
言葉もなく俯いていると、
ツイっと、腕を引かれ、純ちゃんの懐に抱え込まれた。
抱きしめるでもなく、ただすっぽりと包み込むような、優しい抱擁。
「あーあ、このまま攫ってっちまおうかな」
笑いを含んだ声が頭上から降ってきて、ドキッと体を強張らせると、そんな私の反応を楽しむかのようなセリフが、再び落とされる。
「なーんてな。未成年誘拐犯にはなりたくないからな、俺。一応公務員扱いだし」
驚かさないでよ、もう!
「ここでは十八は未成年だけど、あと二年で二十歳だから、私。それに日本の法律じゃ、女の子は十六で結婚できるし、だからもう、立派に大人ですよーだ」
「うん、まあ、そうだろうなぁ。三年の間にけっこう、育ったよなぁ……」
はあっ!?
ゴニョゴニョゴニョと語尾を濁しながら、純ちゃんが落とした視線の先には、二つの稜線。マイ・バスト。
あ、あ、あのなぁ。
プチっと、
頭のどこかで何かが切れる、小気味よい音がした。
そうだった、こいつは俺様セクハラ大魔王!
何か逆襲してやる良い手はないものかと忙しなく考えを巡らせて、思いついた一つの方法。
緩い抱擁を抜けだし、一歩二歩、後ずさり真っ直ぐ純ちゃんを見上げる。
「純ちゃん……」
「うん?」
ニッコリ特上の笑顔を浮かべて、今度は一歩二歩、純ちゃんに近づいて行く。