黄昏色に、さようなら。
本当にすぐ目の前で、何事かと目を丸める純ちゃんの顔が、面白い。
――風花ちゃん、ごめんね。ちょっとだけ、よそ見しててね。
たぶん、まだ近くに居るはずの、もう一人の風花に心で詫びて、
息を吸って、止めて、三、二、一!
ええいこの、乙女の純情思い知れっ!
純ちゃんの両頬を勢いよくバチンと両手ではさみ、
ギョッとしているその顔めがけて背伸びをして、一気に唇を重ねた。
ビクリと、体を硬直させてる純ちゃんの反応に『どうだ思い知ったか』と、胸がすく。
そして最後に、言い放つセリフを脳内リピート。
三年前の別れ際の不意打ちのキス。あの時のセリフをそっくりそのまま返してやるんだ。
ニッと笑って、傍若無人に『餞別に、貰っておくよ!』って言ってやる。
そう、目論んでいたのに……。
体を離そうとしたその瞬間。
逆にグイッと抱き寄せられて、離れかけた唇は再び重なった。
それは、封印。
記憶を、力を、体の奥深くに眠らせるための、封印の儀式。
ふっと、
近づきすぎてピンボケだった純ちゃんの顔が少し離れて、呆然と見つめる私の目の前ですっきりと像を結ぶ。
くっきり二重の色素の薄い茶色の瞳が少し照れたような色をたたえて、それでも真っ直ぐに私の視線を捉える。
そして純ちゃんは微かに口の端を上げて愉快そうに笑いながら、信じられないような台詞を吐いた。
「餞別にもらっておくよ」と。
もう、自分の敗北を認めざるをえない。私は、この人には敵わない。
ああ、私って、つくづく進歩がないなぁ……。
それにしても、なんでキスで封印なんだ?
趣味に走りすぎてるんじゃない?