7つ真珠の首飾り
「ありがとう。君に、助けてもらったようだ」

「助けて、なんて」


ただ、勝手に傍にいて、勝手に手を握っていただけで。

そう続けられなかったのは、彼の笑った顔があまりにも美しかったからだった。


「危ないところだった。見つかったのが、君のような人間でよかったよ」


彼はゆっくりと体を起こし、流暢に喋った。特に重大そうな怪我もなく、一時的に気を失っていただけらしい。


「あの、あなたは」

「……見た通りだよ」


今度は人なつこそうに笑って、青緑色の宝石に覆われたような下半身の先にある、尖って二股に分かれた形の尾ひれをひらりと振った。


「人魚、というわけだ」


それは当然ながらとても不思議な光景だった。

人間の上半身に魚類の下半身。ヘソの下あたりぼんやりとした境目があって、そこから下がびっしりとウロコで覆われている。

しげしげと眺めてみても、やっぱり怖いとは感じなかった。
ただただ色や輝きのうつくしさに目を奪われる。


「怖くないの?」

「怖いとは、思わん……です」

「いいよ、自然に喋って。じゃ、人魚は初めてじゃないとか」

「いいや、初めてやわ……」


こんなうつくしい生き物に出逢ったのは、生まれて初めてやわ。

言葉の続きをそっとのみこむ。


「僕も人間の女の子は初めてだ。大きな漁師さんなら、船の上にいるのを遠巻きに見たことがある」

「……人間の存在は、知ってるんやね」

「そう。一方的にね」


喋りながらもわたしの視線はは彼の頭のてっぺんから尾ひれの先までを何度も往復していた。

それに気づいたように、彼は少し体を縮めた。
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