7つ真珠の首飾り
「あんまり見られると、恥ずかしいよ」

「あっ、つい」


わたしが慌てて視線を逸らすと、彼は声を立てて笑った。
その声に、表情に、どんどん親しみが湧いてくるのを感じる。


「名前は?」

「えっ、わ、わたしの?」

「もちろん」


彼が穏やかな微笑を浮かべて自分の方を見ていた。
ただそれだけのことに、わたしはどうしようもなく胸を高鳴らせてしまう。


「久森坂 静、いう名前です」

「シズ。僕はティート。ティート……シェルライン。本名は、もっと長いよ」

「……ティート」


呟いてみる。片仮名の名前なんだ、と思った。それが似合うのだな、とも。


「シズ。おかげで助かった。ありがとう。シズに会えなかったら、僕はあのまま眠っていて、よくない人間に見つかっていたかもしれない」

「大丈夫。この島に、よくない人なんて、おらんから」

「本当に? 確かにここのあたりは、海が特に綺麗だ」


ティートが視線を向けると、波が、ざぁっと音を立てて返事をしたような気がした。

つられて同じ方を見る。水平線の向こうで太陽が生まれている。朝の光に撫でられて海は煌めきを返す。わたしは潮の香りを吸い込んだ。


「海は好き?」

「とても。わたしはこの島で生まれて、ずうっとここにおるから、海のない生活は知らんし」

「奇遇だね。僕もだ」


言われて、それは彼の方にこそ当てはまることだったと気づいて、少し恥ずかしくなる。
だけどティートはわたしが言ったことを馬鹿にしたわけではなく、冗談で返事をしただけのようだった。


「だけど人間は、陸の世界のことも知っている」

「でも、人魚は人間の存在を知ってる」

「おあいこか」


ティートは目を細めて笑った。
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