7つ真珠の首飾り
遠くの深瀬に見えるティートの影についていくように、ある早朝、わたしは海岸線沿いを歩いて行った。

どうやらティートが言っているのはひいらぎ岬のことらしかった。話に聞いたことはあるけれど、詳しい場所は知らない。


「こんな、うってつけの場所を見つけてね」


それは崖になった断面の足元にあいた大きな洞穴だった。

自然の力が穿ったのだろうか。不思議だ。だけど確かにうってつけだった。ここなら簡単に見つかることもないだろうし、海まではすぐ近くだ。


「すごい。秘密の場所やね」

「うん。シズと、僕の、秘密だ」


それ以来、わたしたちはそこを待ち合わせの場所にした。洞穴の中は暗かったので、わたしが蝋燭と燭台を持ってきて、それで灯りをとった。


その洞穴に入ってしまうと、もう、世界にはわたしたち2人だけしかいないような気がしたものだ。

蝋燭を挟んで頭を突き合わせ、他愛もない話を延々と続ける。

わたしは家のことや、女学校のこと。彼は海の中での生活のこと。彼は時々、自分の住む国があまりよくない状況にあることなどを話したが、そういう時彼は決まってひどく辛そうな表情をしていたものだった。


その理由がのちのち、わたしたちにとっての最重要問題になることなど、わたしは知るよしもなかったのだった。
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