7つ真珠の首飾り
彼はどうやらその時の刻み方を、海の世界の住人に広めようとしているようだった。


「そんな、ティートが1人でいきなり言い出して、周りのみんなは、じゃあそうしようなんて言ってくれるもんなん?」

「提案程度じゃ難しいだろうな。きっちり、会議で吟味してもらわないと……」

「会議?」


この時まだ彼の身の上を知らなかったわたしは、彼がどういう意味合いでその言葉を使ったのか、判断しかねた。


「会議って、大臣とかの?」

「……いや、多くの人の意見を聞いて、みんなで相談しようと思っただけだよ」


なるほど、相談か、とわたしは思って、それ以上を聞くことはなかった。

わたしの想像上の「会議」は、海の底の、海藻が揺れる奥の方で開かれていて、説明をするティートの周りに集まっているのは彼の兄弟や友達だった。


「いつも思うけど、ティートの行動力はすごいなあ」


そうかな、と言って彼は少し照れた。夕焼けが綺麗な横顔の上に落ちる。


「壊れていくものや、通り過ぎていってしまうものを」


呟くようにティートが言う。


「見ているだけなのが辛いからだよ。例えそれが無駄だとしたって、何かやらなきゃと思うんだ。……無駄か、そうでないか、考えてから実行しろとはよく言われるけれど」

「うん」


何のことを言っているのかはさっぱりだったが、こういう時にはただの相槌だけで十分なのだとわたしはよく知っていた。


「時間があればそうしたいさ。現実は甘くないね。

ただ、そんな僕の行動でも、つくりだせるものもあるんだってことを、シズは教えてくれたよ」


わたしを見るティートの瞳が、いつもよりもっと優しい。

正しい応え方がわからないけれど、わたしはわたしにできることをする。すなわち同じように同じ気持ちで視線を返してみる。



ティートはその日から、少しだけ口数が少なくなった。




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