7つ真珠の首飾り
ティートと初めて出会ってからひと月程の時が経っていた。

女学校はもうすぐ休みに入るというところで、しかしその分家の手伝いが多くなるため彼と会える頻度はそう変わらないだろうと思っていた。

その頃既にわたしの意識としては、彼と会えることが「普通」で「日常」だった。


「シズ、また出かけるのんか?」


だがしかし、頻繁に外へ出かけるようになったわたしを家族が不審に思うこともたびたびだった。


「うん……公美子のところで、勉強」

「そうか。気ぃつけてな」


畑仕事をする母親に嘘をつく。良心がきりきりと痛むのを感じながら、ひいらぎ岬までの道をわたしは走った。


道のりは決して短くはなかったけれど、どこへ行くにも徒歩が基本だったこの頃の学生にとっては、さほど辛いものではなかった。

岩伝いの道をそろそろと歩き、塩からい飛沫でスカートの裾に染みをつけながら洞くつに到着する。

中をのぞくとティートはいなかったけれど、わたしはいつも通り入って待っていた。蝋燭に火を灯し、天井を見上げてため息を零す。


ここへ来ても、必ずティートに会えるというわけではなかった。彼にも彼の生活があるのだから当然だ。

それにしてもここしばらく、ティートが洞くつに姿を見せる頻度が減った気がする。運の悪い日には、一目も会えずして家へ帰らなければいけない時もあるのだ。


そのためわたしはいつも、学校の勉強道具を持参することにしていた。彼を待つ間はかたい鞄を下敷きに計算や暗記をする。
ここは海の上に浮かんでいるようなものなので蒸し暑さはなかったし、かまって欲しさに喚く妹もいない。
ティートがいない時はいない時で、わたしは1人でこの洞くつを謳歌していた。
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