月の恋
『………クスっ』
あぁ~あ兄さん顔終わっとりますで幸せそうにニヤニヤと…
「よっしゃー!久々由里とデートや!」
立ち上がってガッツポーズする小林を机に片肘(かたひじ)をつきその手の平に自身の頬を乗せて見上げる。
「髪型変じゃない?」だとか急にバタバタ動き出す小林に生綉姫は内心、お前わ女か!なんてツッコミを入れる。
慌てた様子で教室から出て行った小林は職員室から取ってきたのであろう自分の荷物、片手に生綉姫の居る教室の前扉を開けると生綉姫に声をかける。
ーーーガラッ!
「悪いな!天上!俺さき帰るわ」
はぃはぃ分かってます~
「コバヤン、ネクタイ曲がってんで」
生綉姫はヒラヒラと苦笑い気味に手を振る。
「おぉサンキュー」
「なんかあったら電話してこいよ」と最後に声をかけて小林は颯爽と走って行く。
そんな姿に生綉姫は自然と口元が緩む。
『コバヤンやから姉ちゃん幸せなんやろな…』
ほんま~頼むで未来の兄ちゃん
『あっ!鬼ババに色気使ったん姉ちゃんに言うたろ~』
………ニヒヒヒヒヒ
ーーっぞく!
「どうかした?」
「嫌…何か今寒気がしたような」
生綉姫の思惑をどこかで感じた小林は隣で心配してくる由理をよそに自身の体を両手で摩りながら「気のせいか…」と呟き由理の手を握り締めて歩いてゆくのだった。