月の恋
生綉姫が部屋を出ていった後、雷寺が壁に寄り掛かってる咲羅へと目を向ける。
「…アイツの後追わねぇのか?」
雷寺は生綉姫が出て行った方にチラッと視線を向けるとまた咲羅へと視線を戻す。
雷寺の声にゆっくりと瞼(まぶた)を開けた咲羅は視線を床に向けたまま口を開いた。
「…皆様はこのまま天鬼邸(てんきてい)へ留(とど)まり下さい。後日、鬼壟様からお話があると思いますので……」
「俺達が集められたのは婚儀の話じゃないってこと?」
それまで黙っていた水元が微笑みながら咲羅に問う。
だが問われた咲羅は眉間に皺(しわ)を寄せながら
「違う」
と告げた後すぐに踵(きびす)を返してそのまま部屋を出て行った。
「あれ?もしかして俺何か怒らしちゃったかな?」
ちっとも悪いと思っていない様子でほくそ微笑んでいる水元に雷寺は小さくため息をついた。
「お前の悪い癖だ…今の咲羅にとっちゃ“婚儀”つー言葉は禁句そのものだ。とくに鬼壟、関係ではな……」
「本当…報(むく)われない想いなのに一途だね~」
何が面白いのか水元はクスクス笑いながら酒を飲む。
そんな水元を呆れ気味に見ていた雷寺の耳に誰かが立ち上がる音が聞こえた。
「お前らどこ行くんだよ」
雷寺は自分と水元、以外の妖怪達が部屋から出て行こうとするところに声をかける。
そんな雷寺の声に振り返り口を開いたのは太奇だった。
「あんたら今何時だと思ってんだよ?……俺はもう寝る」
一つ欠伸(あくび)をして太奇は部屋を出て行った。