月の恋
「何だよもうそんな時間か?」
雷寺はみんなが出ていったほうを見ながら呟く。
そんな雷寺の横で最後の酒をグイッと喉に流し込んだ水元はゆっくりした動作で立ち上がり皆が出て行った方へと歩いて行く。
「じゃ…俺もそろそろ寝るわ」
「待てよ」
雷寺に向かってヒラヒラと背中越しに手を振っていた水元に雷寺が口を開ける。
「お前何考えてんだ?」
「何が?」
雷寺の問を無視するわけではないが水元は自身の歩みを止めることもなく出口へと進んで行く。
そんな水元の背中に雷寺は鋭い視線を向ける。
「殺そうとしただろ」
“誰を”とは言わずに水元に問う。
水元は障子の前に立ち戸を開けると雷寺に振り返る。
「君は…優しいね」
「っ!」
水元のその表情に雷寺は一瞬息を呑(の)む、その間に水元は廊下に広がる闇へと足を踏み入れる。
水元の姿が闇に溶け込んで行く中、雷寺は慌ててその背中に声を出す。
「水元っ!!」
「………」
「生綉姫と“アイツ”は違う!重ねるな!!!」
雷寺の言葉が終るか否やで障子がパタンと音を立てて雷寺の視界から完全に水元は見えなくなってしまった。
「…間違えんじゃねーぞ」
雷寺の呟く言葉は水元の耳に届くことはなかった。
そして……ーー