月の恋
「重ねるな…か」
水元は先程聞こえた雷寺の言葉を繰り返すと小さく口元に自嘲的な笑みを浮かべた。
「………」
確かに俺は重ねてるのかもしれない…
だがな…雷寺、お前は気づいているのか?
雷の如(ごと)く敵を薙(な)ぎ倒していく様は伝説の神、雷神を思い浮かばせると恐れられたお前が何故たかが人間1人を助けるのか…
お前にこのことを言えば「助けてなどいない」とお前は言うだろう
だか…確かに助けてんだよ
さっきお前が脅しまがいに生綉姫を部屋から追い出したのは少しずつだか生綉姫の顔色が悪くなってきていることに誰よりも早く気づいたからだ…
俺もお前のあの行動を見なけりゃ分からなかっただろう
分からないぐらいに生綉姫はあの空間に馴染み過ぎてた。
忘れていたんだ生綉姫が“人間”であると…
妖怪の世界に入ってまだ数日、俺達のような“力”を持つ者の側にいるなんて人間にとっちゃ呼吸一つも苦しくなる状況に違いない。
なぁ…雷寺、お前は何で気づけた?
何で助けたりした?
お前の行動の裏には“何”がある?
そこまで考えると水元は口元に笑みを浮かべてふぅーと息を吐いた。
「ふっ……結局真実は本人にしか分かんねぇ~よな」
ただ…俺も雷寺も生綉姫を“生綉姫”と見る前に“何か”を通して見ていることは確かだ
もしも…
もしもちゃんと生綉姫“本人”を見ている者がいるならば……
それは……
「…鬼壟だけだ」
水元が呟いた声は誰の耳にも届かず静かにただ静かに闇へと溶けて行った。