月の恋
蒔騎にも鬼壟の思いは分かっていた…
…だからまだ会いたくも会わせたくもなかった…だが月鬼族の兵や使用人達に姫を認めさすにはあの妖怪の集まりに参加させるのが一番だった。
だが自分が異変に気づき急いであの部屋に戻った時には姫はもう居なかった。
すぐに近くの者に聞いて探しに行ったがなかなか見つからずやっと見つかったと報告があったのは朝方………だが
一安心したのはつかの間、姫が居たのはこの鬼壟の場所……。
さて、どうしたら良いものか…
目の前でこちらを睨みつけてくるコイツにどう言えば
蒔騎はゆっくり目を閉じーー…
鬼壟を睨みつけるように見て言葉を放つ
「これ以上隠し立てすれば例え貴様でも許さねぞ!!」
「っ!あんたの!」
「あんたらの姫は14年前に死んだだろうが!!!」
「……」
「……」
空気が張り詰める
我等鬼の中でも絶対なる力を持ち妖怪達を付き従える鬼の長“鬼壟”
鬼の中でも一、二を争える力を持ち聖なる姫に愛され仕える“蒔騎”
両者とも一定の距離を保ってはいるが今にも戦闘が始まりそうな空気に誰もが息を呑む
「…では、言葉を変えよう」
先に口を開いたのは蒔騎
「…天上 生綉姫様は何処にいる?」
ーーガシッ!!
「ふざけたこと言ってんじゃねぇーぞ!!」
鬼壟は蒔騎の胸倉を掴み上げ殴ろうと腕を上げた
誰もが…誰もが終わりだと思った刹那ーー
『ッベックッショーーン!!…あっやべ』
入口の前の廊下で逃げようとしたのだろうか、鼻水を垂らしながら口を手で押さえた少女を鬼壟も蒔騎もいつの間にか2人を止めようとした風雅や月鬼族の者も皆、時が止まったように見ている。