月の恋
「貴女の頭がそこまで悪いとは思いませんでした。」
暁岾はもう一度、鈴を真っ直ぐ見詰め、そしてあの美しく恐ろしい声で口を開く。
「このお方が何処のどなたなど関係ありません。鬼壟様がこのお方を“お客様”だと申された、その時からこのお方を“お客様”として接しなくてはならない、どんなに気に入らなくてもそれが我ら主の命令ならば守るのが我ら配下の者。にも関わらず貴女はこのお方に無礼を働いたそれは、我が主に無礼を働いたのと同じ!」
「そのようなことも解らぬ者は今すぐこの屋敷から出て行きなさい!」
暁岾の声が瞳が彼女自身を纏う全ての空気が一瞬にして刃となりその場に居た者は誰一人、息さえ出来ずにいた。
もちろんその全てを当てられている鈴は息をしていない上に全身から血の気を無くし震え上がっている。
「…連れて行きなさい」
しばらくの沈黙の後、暁岾の声でその場の全員が我に返る。
そして、いつの間に居たのか黒い服をきた男二人が表れ、鈴の腕を掴み引きずるように連れていった。
それと同時に周りの人達も自分の持ち場へと帰っていく
そんな中、生綉姫は鈴が連れて行かれた方をいつまでも見ていた。自分の両手で自分自身の体をさすり今だに震える唇を噛みしめながら……
そんな生綉姫を見詰めていた暁岾は
「……生綉姫様」
小さく生綉姫の名前を呼んだ。