月の恋
木漏れ日は、記憶の中に…
ふ~ふふん、ふふ~ん
『あ~!ほっんま広いなこの屋敷』
さてさて、次はどこ行ったら良いんや~
掃除を始め予想以上に楽しくてしかたがないのだろう生綉姫は鼻歌を廊下に響かせている。
『まぁ!こんなもんちゃうか』
綺麗になった廊下を誇らしげに見つめていた生綉姫はふとさっきから気になっていたところへ目を向ける。
その視線の先には上に登る階段がある。
暁岾が生綉姫を連れて来たとき『あの階段には近づかないで下さい』と言われてはいたものの…
ーーーニヤリ
『止められれば、行ってみたくなるのが何とやら~』
近づくなとは言われたけど行くなとは言われてへんし。
ちょっとだけ、ちょっとだけ。
生綉姫は掃除道具を廊下の隅に置き音を立てずに上って行く。
…なんやこれ!
めっちゃでっかい扉やな
階段を登りきると目の前には見上げるほどの扉があった。
『開くんかな?』
生綉姫はドアノブに手を置きゆっくり引いてみた。
ーーーギィィ
開きよったーーー!
普通鍵かかってんちゃうん!!
開かんかったら戻るつもりやったのに…開いたらよけい気になってまうやんかーー
開いたことに嬉しいんだか残念だか微妙な気持ちのまま生綉姫は扉の中を覗いてみる。
暗!!
何も見えへんやん。
ずっと見ていても真っ暗すぎて何も見えないことに生綉姫の好奇心がウズウズしはじめる
暗いとこなど普段なら嫌がって入らないが今の生綉姫には怖さよりも好奇心が勝ってしまった。
あぁーー無理!
行ったれ!!
『お邪魔しま~す』
ーーーギィィ……バタン
扉が閉まる音だけが小さく階段に響いた。