月の恋
「いえ…何も」と答えつつ声がした方に目線を向けるが……見えるのは彼の背中だけ。
薄暗い部屋の中そっと顔を上げ目の前の彼の背中を見詰める。
彼からこちらは見えていないはずなのに私が今彼を見上げてることもどんな顔をしていているかも……心ですら彼には全て見透かされてる気がしてならない。
誰よりも気高く誰よりも神々しい存在
誰よりもお側に居たいと願い続ける人
だが…そんな彼から発せられた言葉は私を奈落の底に突き落とした。
「………咲羅、生綉姫の側近(そっきん)になれ」
「…え」
その声はとても冷たく私の全てを止めてしまう
「…き…鬼壟様…」
震える口でやっと出た声はあまりにも弱々しく彼に届いているのかさ分からない。
「鬼壟様…どうしてですかっ!」
それでも今の言葉を信じたくない一心で彼の背中を見詰める。
「咲羅…「私は!!っ!貴方様以外の者の側などに居たくはありません!!」」
これが私が始めて主……愛しい人に反論した時だった…………。