涙雨【短編】
「理由は聞きませんよ。
それに、誰にも話したりしません。」
私はそう言って立ち去ろうとした。
「ちょっと待って!」
彼はこちらにやってきて私の足を止めた。
「何ですか?」
彼は一息おいて、
子どもをあやすように言った。
「泣いてもいいんだよ?」
どうして。
言葉にならない声が嗚咽となって廊下に響き渡る。
「…っやだ。泣くつもりは…。」
拭いても拭いても溢れ出す涙。
もう自分でコントロール出来なくなってる。
「さっきからずっと泣きそうな顔してたから…。
余計なことしたね、ごめん。」
私は頭を大きく横に振った。
違うの、
あなたのあまりに綺麗で純粋な涙だったから。
彼と別れたこと、悲しかったから。
私の涙は雨に奪われたと思ってたから。
彼は何も言わずただ泣き続ける私にハンカチを渡して、
独り言のようにこう言った。
「涙雨、止んだよ」
私は嬉しくてまた泣いた。
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