-Judge-
喪服のままその場を後にした私がたどり着いたのは、都内にある大きなビルだった。
その建物は、世界各地にその規模を拡大させた会社の中のひとつ。
綺麗なビルを前にして、田舎で育った私は少し躊躇した。
こんなところで何をするというのか。
男が受付の前を通ると、受付にいた綺麗に化粧を施した女達が微笑みながら「お帰りなさいませ。」と頭を下げた。男は、その角度まで徹底された綺麗なお辞儀を一瞥して小さく手を上げると、そのままエレベーターへと乗り込んだ。
最上階のボタンを押すと、ポケットに手を突っ込む男がこっちを見てきた。
「名前は。」
「都月(ツヅキ)。」
「ほう。変わった名だ。」
何かを考えるように一瞬目を細めた男は、だが、と言葉を続けた。
「その名はもういらない。そうだな…。その麗しい見た目からお前は今日から“レイ”だ。」
男の笑みは恐ろしい程に歪んでいた。