ラブトラップ
緊張で固まりそうな指を解(ほぐ)しながら喋っていた私は、いつ、スタジオのドアが開いたのか気付かなかった。

「随分熱心だな」

聞きなれた低い声は、美虎のものだった。
見慣れているはずのジーンズにパーカーというどうってことな格好にですら、私の目は釘付けになってしまう。

だから、いままでのようにすぐには言葉が出てこない。
気まずい沈黙から逃げるかのように、陽介が口を開いた。

「そこまで褒められたら仕方が無いな。今から探してきてあげる」


ず、ズルイっ。

陽介はひらりと手を振ると、困っている私を置いてとっととスタジオから出て行ってしまったのだ。

私は慌てて、今までどおりを取り繕おうと必死に頭を回転させる。
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