ラブトラップ
「熱心なのはいいことじゃない。
 別段、不機嫌そうに絡まれる覚えないんだけど」

多分、前の私だったらそういう風に返したであろう言葉を口にする。

「不機嫌なんかじゃねーよ、別に」

ぷいと視線を逸らしたまま、低い声で美虎が呟いた。
それは、最初に私の自己紹介にケチをつけたのと、同じ口調。

私はさらに何か言いたかったけれど、心臓の高鳴りが頭の回転を鈍らせて、どうしようもない。

そうこうしているうちに、メンバーが揃って、私たちは前回のライブの反省と、次回のライブに備えた練習を始めることになったのだ。


練習に没頭していると、二時間なんてあっという間。
時計に目を落とした美虎は、誰よりも早くスタジオを抜け出して駆けていく。


それは、今までと変わらない光景なのに。
そして、今まで一度も美虎のその姿を見て、何かを考えたことさえなかったのに。



今は、どうしても、その、後姿を追いかけたくて仕方が無い自分に気付いて苦笑する。
< 68 / 90 >

この作品をシェア

pagetop