ラブトラップ
「だいたいさ。
 斉藤の探りが決定打だったとはいえ、皆――いや、宏は別っぽいから、俺と陽介かな――は気付いてたよ。
 ライブの後から急に、キリンの美虎に対する態度が変わったこと」

「うっそ――っ」

思わず大声をあげる私。

「本当、本当。
 だから、今更恋の罠をしかけようったって無理なんだって。
 直球勝負の方が潔くっていいんじゃない?
 ――なぁ、美虎?」


――な、なんですって?

あまりにもさらりとした健二の最後の一言に、私の心臓は止まりそうになった。


「じょ、冗談でしょう?
 健二――っ」

ばくばくと鳴り響く心臓はまるで時限爆弾。
でなきゃ、舞台の始まりを告げる長い長いドラムロール。
私は、健二の視線の先を辿りながら、舞台のカーテンが上がる速度にも似たゆっくりとした動作で回れ右をする――。
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