ラブトラップ
「うわぁあああっ」

私は脱兎の如く健二の背中に隠れてしまう。


日曜日の夕方。人通りの少ない商店街の歩行者天国。
迷惑そうな顔でそこに立っていたのは、稲葉美虎、その人だった。

「――お前ら、こんなところでデカイ声で。
 いつまで不毛な立ち話を続けるつもりだ」

相変わらずの不機嫌そうな声。
健二の大きな背中の後ろで、私は狼から逃げるウサギのようにびくんと震えた。


――いや、実際は虎から逃げているキリンなわけですが。


「な、なんでアンタがここに居るのよ」

私の声は思い切り上擦っている。
いつから、この話を聞かれていたのかしら。

身体中の毛穴が開いて汗が駄々漏れているような錯覚に見舞われながら、健二の背中からそっと顔を出す。
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