奇跡の花がここに咲く

弘のやり返す様子が見られなかったため、俺の方から拳を向ける。
すると、それを弘が手で止め、耳元で囁いた。

「喧嘩目的でここに来たのか?」

その言葉で、俺はやっと冷めた。
喧嘩するとどうしても制御できなくなってしまう。
そもそも、弘を殴ったのは、こいつのあまりの言い方にカッとなったからだ。
俺も悪いが、弘も悪い。

「お前が殴られた理由分かるまで、謝らねぇから。」
「一応謝るのか。」
「理由が分かればな。」
「・・・腕の事か。」
「そうだよ。」

気付くの遅ぇな。

「お前本当は・・・惨めだからじゃなくて、悲しませてくねぇからじゃないのかよ。」
それを聞くと、弘が深い溜め息をついた。

「よく・・・分かったな。その通りだ。」
声に感情が灯っている。
これは多分、本音だ。
弘は顔を伏せながら言った。
「綺麗に出来上がったら、医者に提供しようと思ってた。でもこの前、真央は一人で泣いてた。『どうせもう腕は戻ってこない。』と。だから、失敗した話なんてしたら、絶対に悲しむだろう。そんな顔・・・見たくない。」
俺が、ツツジが癌に侵されていると知った時と、同じ声だった。
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