colorful -カラフル-
第一章


 俺は、人にはそれぞれ人生っていうものがあるから、人の数だけ物語があると思う。今でも実際そうだと思っている。偉大な科学者とか有名な芸能人とか、そんな人達の生い立ちを俺は知らないし、知りたいとも思わない。そんなのを知るくらいなら、周りの人間の生きてきた道を見てみたい。

 例えば父親は学生時代はどんな学生だったのかとか。家でいるような無口なキャラだったなら、どうやって母親を落としたんだ?そこは多分一生解けない謎だ。
 向かいの家の紗羅ちゃんのお母さんは美術関係の大学に通っていたそうだ。大学ではどんな絵を描いていたんだろう?
 右隣の席の武内はサッカー部の荒畑先輩と付き合っているらしい。どういういきさつで付き合うことになったのか。武内は一見大人しそうに見えて、意外と肉食系なのか?それとも荒畑先輩が告白したのか?
 左隣の篠原一哉は本当に面白いバスケ仲間だった。男の俺でもあいつはイケメンだと思うし、モテるんだろうな。俺としては篠原は今まで出会った人間の中で断トツで面白い奴だ。発想とか、発言とかも普通じゃない。どうやって生きてきたらそんなに面白くなったんだ?

 と、まあそんな些細なことが知りたかったりする。周りの人間なんて数え切れないほどいるし、死ぬまでに関わる人間達を頭の中で整理するのが限界だ。会ったこともない喋ったこともない、写真でしか見たことないような奴らの生き様なんか知るか。

 長々と語ったが、結局言いたいことは単純明解だ。人の数だけ物語は存在するんだ。ちょっと有名になっただけで偉そうな顔をするな。人は誰もが生まれた時から死ぬまでの物語を、一生をかけて創り上げるんだ。まだ創りかけの俺の物語に、誰も口出すな。

 それだけなんだ。
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