colorful -カラフル-


 駅で母親と待ち合わせをして、車で総合病院まで連れて行ってもらった。俺はiPodを聴きながら外に目をやっていた。母親の文句とか聞きたくなかったし。だから景色の変化を視界に映していた。普段は車の移動時間なんて睡眠にあてていたのに、今日は朝練がなかったからいつもよりたくさん寝てしまい、夜になってもあまり眠くはない。入院なんて嫌だな。ますます退屈になる。勉強なんてする気はさらさらないし。

 「着いたわよ。」

 母親の声に、俺は松葉杖を出し、ドアを開けた。総合病院はやはり大きい。敷地面積どれくらいなんだ?そんなことを考えていると、母親が朝から準備していた入院グッズを車から出し、受付の方に歩き出した。

 入院手続きを終えると、俺は病室に通された。四人部屋だったが、運よく窓際のベッドだった。ベッドの横に『塚越琢磨』という名札があって、そこでやっと自覚を持てた。俺は今日からここで、時間を無駄にしていくのか。

 「こちらは第一病棟となります。第二病棟以外は施設を自由に使っていいですよ。」

 看護師の説明を聞き、適当に相槌を打っておいた。俺にとってはそんなことどうでも良かった。さっき窓からバスケットのコートを見付け、それさえあれば生きていける気がしたから。

 「それでは何かありましたらナースコールしてくださいね。明日からは精密検査に移りますので、安静に。」

 売り物の笑顔を振り撒いて、看護師は部屋から出た。
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