colorful -カラフル-


 病室を出てから一階に下りて外に出るのに、凄く時間をかけてしまった気がした。怪我をしていると、通常の三倍は時間をかけている。急いでいるからと言って階段を使える訳でもなく。もったいないな。

 バスケットコートには誰もいなかった。むしろこの病院内に使う人なんているのか?何のためにあるのか分からないバスケットゴールを目の前にして、俺は致命的な失態に気が付いた。

 「あ。ボールないじゃん。」

 声に出すと更に気が落ちた。ボールないのにどうやってバスケやるんだよ。

 「…あーあ。時間無駄にした。」

 肩を落として、今来た道を引き返そうとした。松葉杖を巧みに使って方向転換をする。するとそこにはさっきまではいなかった男の子がいた。

 「兄ちゃん足怪我してるくせにこんなとこで何してんの?」

 手にバスケットボールを持つ彼は俺を見上げてそう言った。大人げないのはわかる。でも一発ぶん殴りたくなった衝動を止めることは出来なかった。

 「いてっ!」
 「怪我してたら何だよ!怪我してたってバスケは出来る。」

 腹立つ小僧に俺は偉そうに言ってやった。怪我してたら走れないことは俺が一番知ってる。目の前で試合をしているのに、仲間と一緒にプレー出来ない不甲斐なさを俺はよく知ってる。

 「お前に何が分かるんだよ、クソガキ!」
 「大して上手くないくせに偉そうに言うな!」

 負けじと言い返してくるガキの手にあるボールを俺は一瞬で奪った。
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