colorful -カラフル-
二人で近くのベンチに腰掛け、少しだけ話すことにした。話すって言っても、実際に話すことはない。だってお互いの名前も知らないのだから。知らない?確かに俺は学ランの名前を知らなかった。
「…お前、名前なんていうんだ?」
沈黙を遮ったのは俺の質問。口を開くと、息が白く浮かんだ。
「俺?俺は篠原。篠原一哉って言うんだ。」
学ラン、篠原は俺が渡した飲み物の缶で手を温めながら、名乗った。手って言っても、左手だけだけど。右手は包帯が巻かれていて、温かそうだった。でも、それを羨ましいだなんて思わなかった。
「骨、折れてるのか?」
そう尋ねれば、篠原は小さく首を横に振った。聞けば捻挫をしたそうだ。しばらくバスケは出来なさそうだ。そう言えば、篠原は軽く笑った。
「しばらく?もう中学の間は出来ねえよ。」
「なんで?中三の私学大会があるだろ?」
「…俺、高校受験するからさ。」
驚いた。勉強のためにバスケを捨てるのか?当時の俺には全く考えたことのない選択を、篠原は簡単に口にした。もちろん、今の社会は大学を出ないことには出世なんて考えられないけど、せっかくの高校時代を勉強に費やすのか?
「そういう家系に生まれたからさ、しょうがないんだよ。」
寂しそうに困った笑顔を見せる篠原に、俺は俯くことしか出来なかった。