誰でもない。君へ
〜別れ〜

『ねぇ・・・もぅ別れよぅ・・・』


彼女から別れを切り出されたのは、今年3回目だった。
理由は大体解ってる。
この、天の邪鬼な性格が彼女を苛立たせ続けていたこと。


『・・・本気で言ってるのか?もぅ少し考え――』

『前に別れよぅって言ってから!・・・明(あき)さんを見てきた結果よ・・・。切なくなるばっかりの恋いなんて・・・もぅ嫌だよ...』


言葉を遮られて、まじまじと彼女を見ていた。
小さな体をもっと小さくして、泣くまいと必死に堪えてる。

そんな姿すら愛しいはずなのに...。


『・・・解った。別れよう・・・。』


少し声が震えた。
心の中では違うセリフがこだましていた。


『今まで・・・ありがとう。元気でね...』


泣き笑いの表情で一度俺を見てから、うつむいて玄関へと向かって行った。


『・・・ゆみ・・・』


その小さな背中に向かって、やっとの思いで呼びかけた。
俺も泣き出しそうで、目頭が熱かった。

彼女が振り向かずに立ち止まった。


『・・・またね』


明るく装った声が頭に響いた。
靴を履き、玄関を開けて出ていく動きがスローモーションの様に見える。

―パタン―


一気に涙が溢れ、こぼれた・・・。
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