走りだした夢
隼人も西ルートはクリアできていない。誰が一番初めにクリア出来るか競争している。そんなこともあって、西ルートを攻略する為に練習に来たのだ。気合を入れて知多半田駅につくと「遅かったな。そろそろ来るころだと思っていた」と、隼人が額から汗を滝のように流しながら言った。
 「風太君がいないね」
 「あいつは寝坊助だからな、あと1時間くらいすればくるんじゃないか」
 「隼人君、ロードバイクだったら上れるんじゃないかな」
 「流星はそんなくだらないこと考えているのか」
 「くだらないって」
 僕は不快な顔をした。
 「オレも自転車の事は詳しく知らない。でも、ツール・ド・フランス出場選手が折りたたみ式のタイヤがめちゃくちゃ小さい自転車に乗って、オレたちが27インチのロードバイクに乗って勝負したとする。どちらが勝つと思う? なんて聞かなくてもツール・ド・フランス出場選手が勝つと答えるだろう?」
 「うん」
 「じゃあオレ達の出来ること、やることは、ロードバイクを買ってもらうことじゃないだろう。与えられた自転車を使いこなすことなんじゃないのか?」
 「そ、そうだね。隼人君って本当に4年生? なんでそんなこと思いつくの」
 僕はあまりにも大人びたことを言う隼人に思わず聞いてしまった。
 「練習するぞ。たまには流星が1番を取れよ」
 隼人は僕の肩をポンポンと叩いた。
 何度走っても坂の中腹で止まってしまう。蛇行して粘っても前に進んでいかない。
 何度も何度もやっているうちに太陽は真南到達し、肌を焼く音が聞こえてきそうなほどの灼熱が2人を襲う。
 「もう帰ろうよ」
 必死になって練習する隼人に声をかけた。
 「先に行っていて良いぜ」
 「熱中症になるよ」
 「だいじょう…」
 足元をフラフラしてバタリと倒れた。
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