走りだした夢
捨てられた自転車
僕と風太は夜8時半過ぎに隼人の家を訪問した。3人でツール・ド・フランスを見る為である。僕も風太も隼人の両親も今日はゆっくり寝ていた方がいい。と、アドバイスをしたが、1年に1回しかないツール・ド・フランスのライブ中継を見逃すわけにはいかない。とガンとして聞きいれなかった。で、僕と風太に電話してきて「今夜ツール・ド・フランスを一緒に観ようぜ」と誘ってきたのだ。風太は知らないが僕は断った。昼間救急車で運ばれたのだから。「見舞いがてら来て、ツール・ド・フランスを見てから帰れば良い」なんて調子の良いことを言って3人でツール・ド・フランスを見ることになった。
 ライブ中継が終わるのが深夜1時か2時になるので、いくらお隣同士でも、小学生をそんな時間に外に出すのはあまり良くないということで、お泊りする事になった。
 いよいよ2010年のツール・ド・フランスの放送が始まった。ライブ映像はまだ配信されておらず、解説者と実況中継者とゲストの方が予想をしたり、どんなことを思っているのかなど話していた。
 「今年はランスに優勝して引退してほしい」
 ランス・アームストロングにぞっこんな僕は目を輝かせて言った。
 「無理無理。去年だって総合3位は奇跡だって。もう、入賞するのも無理だと思うぜ」
 冷静に分析する隼人が身も蓋もないことを偉そうに言った。
 「隼人は熱中症で倒れんたんだから起きてこなくていいよ」
 僕はムッとして隼人の顔を見た。
 「ランスも良いけど、やっぱりマーク・カベンディッシュだって。まだポイント賞は取得していないけど、平坦ステージは無敵だからな」
 風太は自分の脚質がスプリンターなので、スプリンターに憧れる。カベンディッシュの前はマキュアンが好きだった。
 確かに平坦ステージでのゴールスプリントは見ごたえある。モータースポーツにはないゴールシーンである。自転車は空気抵抗との戦いなので、スプリンターを擁するチームはエーススプリンターをゴール1キロほど手前
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