走りだした夢
「雨で落車してリタイアだって。可哀想だね」
 「仕方ないさ。自分が攻めた結果がそれだったんだから。勝ちたかったんだろう」
 隼人は冷めている。
 「どんな環境でも、ロードバイクの性能を最大限使いきって走らなければ勝つことは無理だからね」
 偉そうに風太が言った。
 偉そうに言っているが、風太の予想通り暫定1位はカンチェラーラで、ほぼ勝利を手にしそうな感じである。風太の予想は大抵当たる。的中率80%くらいだ。もし、これが競馬、ケイリン、競艇ならば大金持ちになっている。
 とうとう前年の総合優勝者アルベルト・コンタドールが走る時が来た。真剣な顔をして、神経を集中させている。スタート台に移動する。審判が5、4,3、2、1… 滑らかに走りだした。
 「コンタドールステージ取れよ」
 隼人が突然起きるとテレビにかじりついて吠えた。
 「隼人興奮しすぎだ。今度は興奮しすぎてブッ倒れるぞ」
 風太が呆れた顔で言う。
 「コンタドールがステージ優勝するなら倒れても良いぜ」
 ニヤリと笑い親指を立てた。
 もう、熱中症は良くなったのだろうか? 僕はまだ青白い顔の隼人を心配そうに見つめた。
 「何しけた面してるんだよ。ランスのタイムが抜かれるかもと思って心配なんだろう。ランスはおっさん。コンタドールは青年心配しなくてもコンタドールが勝つから」
 昼間に救急車で運ばれたとは思えないほど元気だけはある。
 約10分間応援したおかげと言っていいのか、コンタドールは6位。僕の応援していたランスは4位で、コンタドールよりも5秒タイム差を付けてゴールしていた。
 「年齢よりも経験値。総合優勝7連覇の百戦錬磨はそう簡単にはやられないんだよ」
 得意になって僕は隼人に言った。
 「5秒なんてすぐ追い抜ける。余裕だね」
 まるで、隼人がコンタドールになって話しているよう
< 13 / 40 >

この作品をシェア

pagetop