走りだした夢
「そのうち流星が自転車買うからそれまで待ってろ」
僕は「近いうちに」と小さい声で言った。
「流ちゃん、お母さんから電話よ」
僕は電話を切って「3人とも帰ってこいだって」と2人に伝えると、すぐに琴ちゃんの家を出た。なんだか電話の雰囲気は慌ただしかった。なんだか悪い予感がした。
家の前には、僕のお母さんが立って3人が帰ってくるのを待っていた。
「みんなうちに入って」
家に入ると、父さん3人はビールで乾杯して顔が真っ赤になっていた。
「おー、帰って来たな。いや~、愉快愉快。おい、風太も飲め。あー、隼人君も流星君も飲め飲め」
風太のお父さんがビール瓶をもってグラスを持ってこい! と首で合図している。
「ちょっとあんた、小学生にアルコール飲ませる親がどこにいるの」
風太のお母さんがお父さんを叱りつけると、ジュースをグラスに注いだ。
「どうしたの? 何の宴会?」
「喜べ、9月から横浜本社勤務になった。9月からは横浜の学校へ行くぞ」
風太のお父さんは満面の真っ赤な笑みでニタリする。
「隼人もな」
隼人のお父さんが取ってつけたように行った。
「僕も?」
僕はお父さんの顔見た。お父さんは残念そうに首を振った。
「風太、家が狭くて苦労かけたが、家を買うから。向こうで。なあ山城君」
「そうとも、そうとも。3階建ての5LDKだ。犬でも猫でもキリンでも飼えるぞ」
3お父さんはそうとう酔っている。本当のことなのだろうか? 夢でも見ているのではないだろうか? 僕ら3人はポカーンと訳の分からないまま、何も聞けずにただ座っていた。
お父さん達は酔いつぶれて狭いリビングに大の字になって鼾をかいている。頭を蹴飛ばしても起きないほど熟睡している。
「お母さん、本当なの? 冗談なの?」
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