走りだした夢
僕は本当のことが知りたかった。
風太も隼人も耳を澄まして聞いている。
「転勤は本当のことよ。岡田さんも山城さんも大出世ね。お父さんも東海地区部長に出世したわ」
「引っ越すの」
僕は一番聞きたくないけど、聞かなければならないと一大決心をして聞いた。
「そうね。単身赴任とは聞いていないわ」
お母さんは僕の心の内を知らない。とてもあっさり、簡単に話していく。
「オレ行きたくない」
隼人が呟いた。
「オレも」
風太は怒鳴って外に出て行った。
僕は風太を追いかけた。いつもなら、こういう時は隼人が一番初めに動くのに、ただ立ちすくんでいる。隼人も心配心だけど、僕の家にいる。お母さん達がいるから任せておけばいい。とにかく風太を追いかけた。風太はふだん足が遅い。僕に勝ったことがない。大差で勝っている。なのに、今日の風太の足の速さは風の様だ。差が縮まるどころか広がっていく。
クールな隼人、明るいムードメーカーの風太がこんな状態になったこと何度一度もない。隼人はどんな時でも冷静沈着でクールに物事を考える。風太はポジティブに行動する。この2人の考え方や判断能力を羨ましいとずっと思っていた。そしてこの2人にいつも助けられていた。今度は僕が助ける番だ。
僕だって2人と別れることになれば悲しい。辛い。3人とも同じ気持ちだともう。でも、仕方がないと思う。だって、小学生の子供一人で暮らしていくことなんて出来ないのだから。それに、毎日会うことは出来なくなる。でも、でも、日本に住んでいるんだ。横浜なんて新幹線で行けばすぐじゃないか。愛知県はちょうど真ん中にある。東も西もすぐに行けるよ。よく考えれば一番悲しいのは僕じゃないか。風太君も隼人君も同じ横浜なんだ。同じ学校なんだ。僕は9月から一人ぼっちになるんだよ。僕の方が可哀想だよ。一緒に自転車だって乗れないじゃないか。せっかくロードバイクをみんなで買ったのに。まだ自転車は来ていないけど、ロードバイクで日本一周しようって話していたじゃないか。3人で同じチームに
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