走りだした夢
は楽しいだろうけど、1人で走るのは楽しいのだろうか? そんなことを思いながら答えた。
 「行くかもしれないということだね。じゃあ、出血大サービスで、パンクの直し方を講義してあげよう。僕もよくあるんだよ、パンク。そんな時にパンク修理に使うゴムのりやパッチがなくて、10キロ、15キロ歩いたこともあるんだから」
 そんな失敗談を笑いながら話してパンク修理を教えてくれた。全員がタイヤを外し、穴を見つけ、穴をふさぎ、タイヤを取り付けるまでの工程を迷わず出来るようになるまで教えてくれた。
 「あとは車に気をつけることだね。道路交通法は車道を走るのが基本なんだ。小学4年生だと歩道を走っても良いということになっていると思うけど。歩道は歩行者を最優先しなければいけない道路なんだね。だからロードバイクのようなスピードを出す自転車が走る道路ではないんだな。20キロ以上のスピードを出して走るなら、小学生でも車道を走るべきだと思う。その辺りの判断は親御さんと相談してね。親は車道なんてもってのほかと思っているかもしれないから。歩道を走るなら、出して15キロかな。自転車で人を撥ねたら死ぬよ。そう思って気を付けて走るように」
 自転車で人を撥ねるということを想像したことがなかった。20キロや25キロのスピードってどんな感じだろう。そいえば、オリンピック短距離走のウサイン・ボルトが100メートルを9秒台半ばで走った。実況アナウンサーが時速37.6キロで走り抜けた超人ボルトと言っていたのを思い出した。
 ウサイン・ボルトが僕にぶつかってくるのを想像してみた。マンガのようにブッ飛んでいく自分の姿が脳裏をよぎって身震いした。
 サイクルショップ電光石火からロードバイクに乗って社宅の前まで来た。ロードバイク初乗りの感想は思ったより高くて少し怖い。バランスを取るのが難しい。でも、ペダルはスイスイ回るし、ギアもスムーズに変わっていく。ふとスピードメーターをみると20キロは超えていた。
 「引っ越しまでにあと10日ほどしかないけど、サイクリングに行こうぜ」
 明るく言っているようで、なんとなくいつもの隼人じ
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