走りだした夢
ゃない。
 「どこまで行く?」
 「知多半島1周くらいでいいよ」
 風太が面倒くさそうに言った。
 「知多半島1周なら、頑張れば1日で走れるよ。ちょっとつまらないよ」
 たぶん3人で走れる最後のサイクリングかもしれないと思うと、1日は短いと思った。せめて3日か4日。できれば10日いっぱいいっぱい走りたいと心で思っていた。風太もこれが最後になるかもしれないということは知っているはずなのに、なぜ、たった1日のサイクリングでいいと思えるのだろうか? 僕達の友情や絆はそんなもんなのか? いつも一緒にいて家族や兄弟の様な関係だと僕は思っているのに…。風太の言葉に無性に苛立ち、悲しさがこみ上げてくる。
 「横浜に… 行こうぜ」
 「横浜?」
 「無理無理。それに、これから横浜で嫌になるほど走れるって」
 「10日で帰ってくるのは無理かもよ」
 「でも行こうぜ。横浜に殴りこみだ」
 「オレは行かないよ。なんで横浜に行かなきゃならないんだよ」
 風太はイライラしている。
 「なんだよ、せっかく最後だから3人でサイクリングに行こうとしているのに。つまらないこと言ってシラケさせやがってよ」
 「ふざけたこと言って偉そうにしているじゃないよ」
 風太は自転車を壁にもたれ掛けさせると、隼人の顔を殴った。隼人はよろけて尻餅をついた。
 「偉そうなのはそっちだろう」
 すぐに立ち上がり、風太に飛びかかった。2人は倒れ込み、隼人が馬乗りになって風太を殴ると、風太は隼人の髪の毛を思いっきり引っ張り、痛みでもがいている隙に巴投げをした。2人とも同時に立ちあがり、腕を振り上げて走り込んでくる。
 僕は2人の間に入って止めようとした。2人の拳は僕の両頬にヒットした。口が切れて血がにじんできた。
 「止めろ! 止めろ! 止めろーー!」
 人生で一番大きな声を張り上げた。
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