走りだした夢
「自分のことばかり考えているなよ。僕だって寂いしいんだ。親友が2人も同時にいなくなるんだよ。君たちは良いよ。どうせ同じ学校だろう? 僕は一人ぼっちじゃないか。一緒に走ってくれる友達もいない。君たち以外に、ロードバイクに乗っている小学生がどこにいるんだよ」
 泣くもんかと思っていたけれど涙が止め処も流れてきた。
 「どうしたの?」
 大声を聞きつけて鈴木琴美がやって来た。
 僕は口から血を流しているし、風太と隼人も傷だらけで埃だらけ。琴ちゃんの時間が停止したかのように固まっている。
 「大丈夫だよ。琴ちゃん驚いたよね」
 僕の声で琴ちゃんは我に帰った様で「流ちゃん、口から血が、風太君も隼人君も服破れてる。ケンカしたのね」
 「こんなの平気だよ」
 隼人がズボンの埃をはたいた。
 「聞いたわ。風太君と隼人君引っ越すんだってね。寂しくなるわね」
 琴ちゃんの言葉に3人は何も言わずに、黙って顔を見る。
 「あっ、新しい自転車ね。物凄くカッコイイわね。私絵を描くわ。また3人で競争してよ」
 琴ちゃんの一言で勝負の場所を思い浮かべた。
 「鴨宿公園激坂ヒルクライムレースでいこう」
 「受けて立つぜ」
 隼人がロードバイクに跨って言った。
 「面白いじゃないか」
 風太も楽しそうに言う。
 僕もロードバイクに乗ると駅前の信号のところに止まった。ここから鴨宿公園までは約2,5キロ。
「ここがスタートでいいよね」
 僕が言うと2人とも「ああ」と頷いた。
 ゴール前の坂の頂上には琴ちゃんが立っている。
「風太。お前がスタートを切れ。お前のタイミングで」
 「いいんだな」
 「いいよ」
 隼人君は頷くだけだった。
 「ヨーイ、スタート」
< 28 / 40 >

この作品をシェア

pagetop