走りだした夢
風太はスタートダッシュをした。ロードバイクの性能がいいのだろう。グングン2人との差が広がっていく。隼人君は僕の少し前を走っている。
 僕の現在のフロントギヤはアウター。リアギヤは一番小さいところにチェーンがかかっている。この自転車で一番重いギヤに入っている。一番重いということは、1度ペダルを回すと、タイヤの回転数が多いということ。だからスピードがでる。でも、重いギヤであの激坂を上りきること出来ない。すぐにフロントギヤをインナーに落として、リアギヤを真中あたりに変速した。重いギヤよりも軽いギヤの方が足の回転数が高くなる。当たり前のことだけど、実践して初めて実感できる。クルクルペダルが回ると気分も軽やかになってくる。
 正面を向きなおした。すぐそこに隼人がいる。
 「粘ってるな。良い勝負しようぜ」
 隼人はダンシング(立ちこぎ)をしてスピードアップをする。隼人は余裕ですという感じで、あっという間に風太に追いついた。横に並んだ2人スピードを出したり、落としたりインターバルを取っている為だろうか? だんだん2人との差が縮まっていく。確実に2人の背中が大きく見えてきた。
 (行けるかもしれない)
 風太が後ろを振り返る。風太と隼人は残り500メートル。あと100メートルほど走れば激坂の急勾配にはいる。急勾配はゴールまで続く。350か400メートル上らなければいけない。
 僕から2人までは150メートルくらいまで近づいた。2人まだ並んで走っている。風太がダンシングをした。少し前に出る。しかしスピードが続かない。
 とうとう2人は激坂区間に突入。風太はリアギヤを落とさずにそのまま突っ込んだ。途中で足が回らなくなり、アスファルトに足がついてしまった。この激坂区間でギヤチェンジは出来ない。ロードバイクを押して走った。それを見て僕はリアギヤを一番軽くした。足に羽根が生えたように軽く感じた。そして風太をあっさりと抜かしていく。隼人までは100メートル。琴ちゃんの身体が見える。大きく手を振っているのが見える。
 僕は戦い方を決めた。このままこのペースで上っていく。これで負ければそれまで。
 隼人のリアギヤは一番軽くなっていない。少しでも重
< 29 / 40 >

この作品をシェア

pagetop