走りだした夢

ルを持って走った。タイムは隼人よりも少し良い、５３秒９８９だった。
　風太の名前が呼ばれた。風太は頬を２度叩き気合を入れた。風太はスプリンター系だ。もし、３人で勝てる者がいるとしたら風太しかいない。
　「風太頑張れ優勝しろ！」
　僕は出来る限りの大声を張り上げた。
　わぁわぁ、周りの観客がブーイングを送っている。僕も負けじと大声を張り上げる。
　隼人が肘でコツいてきた。
　「流星やめろって。恥ずかしいから」と囁く。
　「ヨーイ…」
　運命のスタートが切られる。
　「…スタート」
　風太は始めからカゴの前下に指をかけて走りだした。２０メートルも走ると風太のトップスピードに達した。足の回転が見えないほどクルクル回している。トラックを半周した。その時だった。カーブの時に力一杯ペダルを漕いだ為、後輪が滑った。オートバイのハングオン状態かと思うほど左に車体が傾いた。とっさに左足で地面をチョイッと蹴り態勢を立て直した。最後はダンシングをしてゴールした。
　風太は流れる汗を拭きもせずにタイムの発表を待つ。
　「岡田風太君のタイム、４４秒２１４。この時点での１位です」
　風太は僕と隼人にガッツポーズをした。
　「なかなかやるね。すげえ燃えてきた」
　風太と入れ違いにボソリといった。
　「最後の出走者は、去年低学年クラスのカテゴリーなのに、高学年クラスのカテゴリーに出走して優勝。今年は彼も４年生。今年も奇跡の走りをみることが出来るか。それにしても、このカテゴリーは面白い。去年風間疾風君が出したタイムをあっさり抜いた伊串翼君。伊串君と風間君の対決かと思いきや彗星の如く現れた愛知県からツーリング途中の岡田風太君６秒も上回るという暴走ぶり。ディフェンディングチャンピオン風間疾風は４４秒２１４を超えることが出来るのか」
　アナウンサーが興奮している。
　「風間疾風君、スタート順備をお願いします」
　疾風が入場すると、応援席から黄色い声援が飛び交う。