走りだした夢
3人のチーム
僕は琴ちゃんのマンションが好きだ。15階建てで半田市で一番高い。半田市が一望できるし風が心地良い。プラモデルのように見える家やミニカーのように見える車。そんな景色が面白く見える。だってあんなに広い街が掌に入ってしまうくらい小さくなる。自分が巨人にでもなったかのようだ。昔から高いところが好きだ。名古屋のテレビ塔。行ったことはないけど東京タワー。東京スカイツリーが完成するまでには、現在の東京タワーに行ってみたいと思っている。
 「流ちゃん、風太君も隼人君もマフィンケーキ食べているわよ。早く来ないと無くなってしまうわよ」
 僕は急いで琴ちゃんの家に入った。お皿の上にはマフィンケーキが一つ置いてあった。その最後の一つを食べようとして、風太と隼人の手が伸びているのが見えた。
 「待った」
 僕は大声で叫んだ。二人の動きは止まり、僕の方を一瞬見る。その隙に走り去りながらマフィンケーキをゲットした。
 「オレのだぞ。返せ」
 二人声をそろえて言う。
 「大丈夫よ。まだまだ焼いているから。たくさん食べてね」
 琴ちゃんのお母さんが嬉しそうにキッチンから顔を出した。
 「本当に琴美の母ちゃんって、ケーキ作りの名人だな。店でもやればいいのにな」
 風太がまだかまだかというような顔をして言った。
 「風太君って、いやらしいね。私がケーキ作った時にはそんなこと一言も言ってくれなかったわ」
 琴ちゃんはプイッと横を向いた。
 「だって、琴美とは比べ物にならないほどうまいから。琴美ももっと修業した方がいいな」
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