走りだした夢
風太は普通に失礼なことを平気で言う。自分では失礼と思っていない。だから、自分が同じことを言われても「分かったありがとう。欠点を教えてくれて」と、喜んでくれる。それが嫌味で言ったとしても。それも、風太が少し変わっている性格で、普通は怒るか傷ついてへこむかのどちらかだ。琴ちゃんは前者である。
 「あー、もう作ってあげないから。秋の運動会にシフォンケーキを焼いて、お母さん持ってきてもらおうと思っていたのよ。それなのに。風太君には絶対にあげないから」
 自分の部屋に入って行ったかと思うとぬいぐるみを両手に抱えて持ってきて「えい」と、ぬいぐるみを風太に投げつける。ポンポン投げつけてくるから、ぬいぐるみがあっちにいったり、こっちにいったり、四方八方に飛んでいく。風太だけでなく、隼人にも僕にもボコボコ当たる。
 「ヒステリになるなよ。みっともないぜ」
 隼人が飛んできたぬいぐるみを受けると琴ちゃんに投げ返した。プーサンのぬいぐるみが琴ちゃんの顔に命中した。
 「隼人君まで私を馬鹿にして」
 「はい、おまたせ」
 琴ちゃんのお母さんが焼きたてのマフィンケーキをお皿に乗せて持ってきた。
 はちゃめちゃの原因の元、風太が「いただきまーす」と一番先にテーブルに着いた。
 「琴美も食べなさい」
 と、マフィンケーキを一つ渡した。
 「お母さんより琴美の方が腕前は良いわよ。お母さんが小学4年生でケーキなんて焼けれなかったわ」
 小さい声で言った。
 琴ちゃんは嬉しそうに笑ってマフィンケーキにかぶりついた。
 7月初旬はまだ日が長い。夜の7時頃までほのかに明るい。気がつくと6時半を過ぎていた。
 「もうこんな時間だ。帰らなきゃ」
 僕は時計を見てった。
 「まだいいよ。明るいし」
 風太はのんき言う。
 「帰ろうぜ。琴美の家に迷惑だぜ」
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