Soft Luck ―ファンタが街にやってきた―
「僕、ペットショップで犬を見てたの。檻に入れられてぐたーっとしてるのを。そしたらしんたろう君が貯金箱を抱えて、僕のシャツを引っ張るんだ。『おにいちゃん、この犬小屋の値段のマルみっつついているから千円だよね?』ってね。二万八千円の値札がついていたから『うんマルはみっつだよ。けど千円じゃ買えないよ』って言ったんだ。しんたろう君は『じゃあ、あといくらいるの?』って聞くからいくら持っているか尋ねたんだ。二千円とちょっとだった。『たくさん足りないなあ』って言ったら彼は悲しそうな顔をしたんだ。しんたろう君のおとうさんは4月から単身赴任で月一度しか帰ってこなくて、おかあさんは〔東京ストア〕ってお店でパートが忙しくて犬小屋を作る暇がないんだって。梅雨が近いのに大きくなってきたしんじろうは今の小屋に体半分しか入らないんだって。僕は姉さんが会社に行ってる間、あちこち散策しているから街道の向こうに材木屋さんがあるのを知っていた。それでまずしんじろうを見せてもらって、しんたろう君のおかあさんにオーケィをもらって、半端な材木を安く売ってもらいに行ったの。材木屋さんはとても親切で『そういう事情なら金はいらねーよ。裏に積んであるハンパなやつなら好きなだけ持っていきな』って。そして僕らは見事な犬小屋をしんじろうにプレゼントできたってわけ。ペイントはママとするって彼喜んでたよ。しんたろう君は犬小屋としんじろうの絵を描いて材木屋さんにお礼に行ったよ。もちろん僕もたこやきを持って一緒に行った。おじさんは『いいねぇ、こういうのって。おじさん好きだなあ』って」
ふぁんたは長ぁーい解説を終えるとサンドイッチをぱくついて、ねえさんおいしいねこれ!とさわやかに言った。