Soft Luck ―ファンタが街にやってきた―
「ふむ、やはりファンタ君だったか。彼のお母さんに彼が日本に行ったからと何日か前電話を頂いていた上、署から出て行くところをチラッと見かけてもしやと思ったのです。係りの者に聞いたら日本語のアクセントが少しおかしかったと言っていたしね。ほほう、あなたがお姉さんですか」
署長の言ったことに、わたしは訳がわからないという顔をした。
わたしの表情をよそに、署長は話を戻した。
「彼は、ああファンタ君は空手と剣道の有段者ですよ。ケチなチンピラなど赤子の手をひねるようなものだ。ナイフなんて恐るるに足りませんでした。こいつらが5人揃って取り逃がした容疑者を彼は一人で捕まえてくれました。・・・オイ失礼をお詫びするんだ!」
署長は寺尾を前に押し出した。
「さっきはどうも・・・」
寺尾はボソボソと口ごもった。
「聞こえんぞ!おおかたこの方達の前では随分と威勢がよかったのだろうに!」
署長に怒鳴られ、寺尾は縮こまって
「すいませんでしたっ」
と、また真っ赤になった。