Soft Luck ―ファンタが街にやってきた―





「君の母さんは、愛情に溢れた素晴らしい人だったよ。僕の両親の元には毎月手紙が来ていた。君の写真に添えたとても明るい内容のね。けれども敦子さんの手紙が明るければ明るいほど両親は心配した。20年間トラブルや愚痴らしきことは一度も書いてよこさなかったから。女手ひとつで子供を育てて楽な筈はないでしょう?でも彼女は決して言わなかった。ただ君という天使の成長だけを嬉しそうに文字にしたためていた。敦子さんが亡くなってママは凄く悲しんでいた。会ったことのない僕までつられて泣いた。まるで肉親の死のようにね。・・・バンビは涙を閉じ込めて我慢してる。強いからだ。でも強さは愛という基盤の上に生まれるんだと僕は思う。掛け値無しの愛の上にね。思い出してよ。敦子さんは愛の見返りなんて絶対に望まない人だったでしょう。静かに大きくバンビを包んでいただけでしょう。それだけだったでしょう?」



わたしはふぁんたにハンカチを差し出されるまで、頬がびっしょりと濡れているのに気づかなかった。
< 195 / 222 >

この作品をシェア

pagetop