Soft Luck ―ファンタが街にやってきた―
まだまだ優雅な学生の身分である彼は、それでも初めのうちはわたしの退社時間に合わせて自慢のスポーツカーを会社の前に横付けし、ケータイから電話してきた。
「ごめんね、残業なの」
「またかよ、それでなくても退社時間が遅いっていうのに」
「仕方ないでしょ、他の会社の人たちが退社してから忙しくなる仕事だもの」
「辞めちまえ、そんな会社」
「ごめんね久志、あの、私用電話禁止だからまた後で」
社内まで聞こえてくるほどタイヤを鳴らして、久志が遠ざかっていくのがわかった。
その後、何とか工面してつくったデートの時間も、別れの言葉を投げかけられる為の数分で終わってしまった。
きっと久志とは遅かれ早かれこうなったのだ。こんな些細なことで別れるくらいだもの。
わたしの三年半の恋愛時代は、最後はこうしてあっけなくピリオドを打った。